Telework2000 国際学会の参加報告
by 下崎千代子(神戸商科大学)

 第5回テレワーク国際学会は、今年の8月28日から31日までの4日間、スウェーデンストックホルムのカロリンスカ病院の敷地内にある医学博物館の会場にて実施されました。この学会は、皆さんご承知のとおり、昨年は東京で開催されたものです。

 今年のテーマは、"2000 and Beyond - Teleworking and the Future of Work?"というテーマでした。日本語にするなら、「21世紀に向けて―テレワークと未来の働き方について―」となるでしょうか。今回の国際学会の主催者であるBirger Rapp氏は、「今年の大会では、これまでの大会の議論を踏まえ、最近のテレワークの動向をまとめ上げるとともに、テレワークの将来像について議論したい」と予稿集にて述べられています。

 4日間の内容は、1日目(8/28)と4日目(8/31)は統一セッション、2日目と3日目はテーマ別セッションでした。統一セッションでは、それぞれの国におけるテレワークの実情あるいは課題等が論じられました。報告での共通した内容は、先進諸国においては、テレワークを実現する技術・インフラは充足されつつあるし、かつテレワークのメリットについては、すでに論じられてきている。しかし、残された問題は、文化・風土・制度・心理といった人間が介在するそれぞれの要因であって、それらがテレワーク導入にあたっての阻害要因になっているという報告が多くなされた。
 

 この統一セッションの中で異彩を放っていたのが、英国のHuws女史である。テレワークを論じる国々は、先進諸国が圧倒的に多い。しかし、いまだ電話の普及率さえも低い国々が世界中にあるわけで、地球規模でのデジタルデバイトが発生しつつある。この問題に対処するべく、まずは、この現状を調査する緊急プロジェクトが実施されるとの報告であった。

 4日目の統一セッションでは、昨年も講演された米国のGil Gordon氏のスピーチがビデオコンファランスでなされました。国際的なビデオコンファランスを小さな学会の場で実現したことは画期的だと考えられます。

 さらに、4日目最後のプログラムであるパネルディスカッションの際の印象的なことを紹介しましょう。開始前に、スウェーデンの産業省大臣であるMona Sahlinさんがこの国際会議開催に対する祝辞がありました。日本ならば、祝辞が終わるとすぐに退室となるわけですが、大臣もこのパネルディスカッションに参加されたのは驚きでした。パネルのメンバーとして自由に意見を述べられ、携帯電話の子供に与える影響が議論されたときには、自分の子供の例をあげて、子供に対する悪影響について話されていました。

 統一セッションの15の発表内容を詳細に紹介することはできませんが、各国でのテレワークの実情等についての発表以外で注目できるテーマは(私見ですが)、デンマーク工科大学のJeremy Millard氏「テレワークからe−ワークへ――呼び名の変化かそれとも内容の変化か?」、米国コロラド大学のWayne Casci教授「仮想ワークプレイスの管理」、すでに紹介した英国Ursula Huw女史「緊急プログラム:知識労働における新たな世界的分業」、米国Gil Gordon氏「テレワークは将来消滅する」といったところではないでしょうか。

 こうしたテーマから、国際学会で何が語られたのかをそれぞれの方が想像していただければと思います。ギルゴードン氏のテーマは衝撃的ですが、発表内容はテレワークが必要なくなるという意味ではなく、予想以上に急速に定着して、テレワークが日常化されるということで、労働すべてがテレワーク化してしまうという意味です。詳細は、ギルゴードン氏のホームページを見てくださいとのことです。

 テーマ別セッションでは、29日に2セッション“テレワークのマネジメントと学習”“テレワークと労働の新しい組織化方法”、30日に2セッション“テレワークと未来の労働環境”“中小企業におけるテレワーク&テレワークと交通問題”が設けられ、全部で36の報告がおこなわれました。日本テレワーク学会のメンバーからは、4本の発表がおこなわれました。“テレワークのマネジメントと学習”セッションでは、國井昭男「組織文化とIT/マルチメディアの導入」、下崎・杵崎・加納「テレワークと日本的人事システム」が、“テレワークと労働の新しい組織化方法”セッションでは、W. Spink「職務再設計としてのテレワーク:日本の挑戦」、古賀・柳原「テレワークにおける関連モデルの開発に向けて」が報告されました。

 全体の総括としては、先進国におけるテレワークの導入の割合は、急速に増大する傾向にある。とくに、モバイルワーク(Mobility)の普及は目覚しい。このように、技術的には携帯電話の普及、ノートパソコンの高性能化・軽量化、インターネットの普及等によって、テレワークの可能性は高まってはいるものの、在宅勤務については、先に述べた企業や国の文化や風土、従業員の心理や価値観が障害なっていることが多い。また、テレワークに適したマネジメントスタイルの確立が急務である。すなわち、テレワークを受け入れる土壌を整備しなければ、今後のテレワーク促進には心理的な抵抗が発生する。こうした問題に対して、今後の研究を進めていく必要があろうということが全体のまとめであったというのが、私の理解する範囲です。

 また、最近、ECの普及が先進各国で政策的にも取り上げられる動向にあります。ヨーロッパでは、E−EOUROPE構想が今年策定され、今後10年間のIT技術者の養成やECの拡大、中小企業のIT化支援の必要性が唱えられている。そうしたことから、次回の学会では、ECとテレワークの関係といったものも今後の研究テーマとして取り組むべきものであると述べられていました。

 最後のシンポジウム終了後は、ストックホルムのシティホールに場所を移して、懇親会がもたれ、美味しいノルウェイサーモンとフランスワインを楽しんだ後、学会は終了しました。

 来年度は、オランダのアムステルダムで開催される予定です。日本からも多数の方が報告されることを希望して、今年の国際学会の参加報告を終わらせていただきます。

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